イベントレポート


2025年9月19日開催 
「ペット防災”はじめの一歩”~熊本地震から学んだこと~」

開催日:2025年9月23日(火)10:00〜11:30
講師:船津敏弘 氏(獣医師/認定心理士/国際中医師/動物環境科学研究所 所長)

今回の第3回セミナーは、災害時に課題が大きくなりやすい「ペットと避難」というテーマ。
動物救護の現場で長年活動されてきた船津先生から、熊本地震の実例をもとに「なぜペットを助けることが人を守ることにつながるのか」「避難所で起こる課題」「私たちができる備え」を学びました。

ペットを助けることは“人を守ること”

船津先生は冒頭、
「動物を助ける理由は、人間のためです」
と語ります。

特に、災害時には以下の現象が起こりやすいことがデータで示されています。

  • ペットと一緒でなければ避難しない人は約2割
  • 置き去りにしたペットを助けに危険区域へ戻る人が8割
  • 避難所に入れず車中泊を選び、熱中症やエコノミークラス症候群のリスクが高まる

つまり「ペットと一緒に安全に避難できる環境を整えなければ、人の命も危険にさらされる」ということ。
熊本地震でも、車中泊が長期化し、救急搬送が続いた事例が多くありました。


ペットは“日常と心”を取り戻す存在

災害は人の精神状態にも深刻な影響を与えます。

  • 家や仕事の不安
  • 将来への悲観
  • 情報が入らず視野が狭くなる(視野狭窄)

しかし、ペットと暮らす人は
「散歩に連れていく」「ごはんをあげる」という“いつもの行動”が避難生活でも続きます。

それが、

  • 心の安定
  • 日常の回復
  • 「ペットのために頑張ろう」という前向きさ

につながると、現場で感じたと先生は語りました。


熊本地震で見えた現実

船津先生は、災害直後にVMAT(獣医療チーム)として熊本に出動。
現地の写真や状況から、いくつかの象徴的な場面が紹介されました。

  • 夜間の発災で、多くの人が着の身着のままペットを抱えて避難
  • 体育館前の駐車場は約2,000台の車中泊
  • 避難所内では、犬や猫が傘立ての横や隅でつながれて過ごす
  • 「迷惑になるから」と、老夫婦が老犬と外で寝続けたケース

どれも「準備があれば防げたかもしれない状況」であり、私たちに課題を突きつける話でした。


備えの“はじめの一歩”は「時間で分けて考える」

災害時のペット対策は、ひとつにまとめて考えるのではなく、

  • 0時間(発災直後)=命を守る避難
  • 数時間〜数日=避難生活の確保
  • 長期=環境整備とサポート

この“時間軸で分ける”考え方が欠かせないと先生は強調しました。

特に大事な準備は「逃げられること」

  • 首輪・リードの常備
  • ケージに入る練習
  • 自分や家の“匂いがついた毛布やタオル”
  • ワクチン・迷子札・マイクロチップ

「ペットは匂いで安心する。安心できる環境を整えるのは、人と同じです」との言葉が印象的でした。


地域としてできること

避難所の課題に対し、全国ではこうした動きもあります。

  • 静岡市
     → 避難所に「ペットスペース設営BOX」を全拠点に配備
      飼い主自身が設営できる仕組みを用意
  • 熊本
     → 使われなくなったキャンプ場を利用した
     「災害時動物救援センター」を設置
  • 松本市
     → 「ペットと過ごす避難所」整備の取り組み

災害時に頼るのではなく
「普段から連携しておくこと」「飼い主が主体となる仕組み」を作ることが重要だと示されました。


まとめ:目指すのは、やさしく“包み込む”社会

最後に、先生が語った印象的な言葉です。

避難所、同伴避難、動物のシェルターをただ分けるだけではなく、
最後にそれらを“ひとつにまとめる”インクルージョンという考え方が必要。

つまり、

  • 飼っていない人
  • ペットと暮らす人
  • 高齢者、障がいのある人
    すべてが尊重され、共に生活再建に向かえる地域をめざすべきだと締めくくられました。

参加者の声

  • 発災直後から必要な支援の中に、福祉の観点と同様にペットについても入れるべきだと思った。
  • これまであまりペット(犬猫等)の被災や、飼い主の同伴避難の意向などについて考えることがなかったが、「それは人(飼い主)のためである」という視点から、大変重要な被災支援の要素であると認識しました。
  • 私は犬がいる限り災害時には自分で犬を守るということだけを考えてきました。だから、車中泊は当たり前だと思っていたし、そのために車も保持しているという感覚でした。しかし、まず自分たちの身を守るためにも最初は緊急避難所にいくということも大切だということを知りました。

おわりに

ペット防災は、動物が好きな人だけの問題ではありません。
「ペットと一緒に避難できる社会」=「人の命が守られる社会」

N-NETでは、今後も官民連携による災害支援体制づくりや、
地域で考える機会を継続していきます。

ご参加いただいた皆さま、ありがとうございました。

アーカイブ動画

今回のセミナー内容をYouTubeで配信しておりますので、ぜひご覧ください。

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